
長妻昭議員といえば、「ミスター年金」としてのイメージが強いと思う。「消えた年金問題」追及が第1次安倍内閣の致命傷になったことを思えば、民主党政権樹立の大功労者だったことになる。そのような「ミスター民主党」に、評価が地に落ちた民主党の政権復活へのビジョンを問うてみた。
日本経済は、所得の再分配と弱者救済がなければいけないと語る長妻昭氏

(ながつま・あきら)1960年東京都練馬区生まれ。慶応義塾大学卒業後、日本電気(NEC)入社。日経BP社で日経ビジネス記者を経て96年旧民主党公認で衆院選出馬・落選。2000年衆議院初当選。現在6期目。09年民主党による政権交代後、鳩山・菅内閣で厚生労働大臣を1年間務める。その後衆院厚生労働委員長、民主党政調会長代理などを歴任。15年民主党代表選出馬後、党代表代行に就任。著書に『「消えた年金」を追って』(リヨン社刊)、『招かれざる大臣』(朝日新書刊)など。
德川 民主党政権時代、そして政権陥落後、野党第一党の今も民主党の経済政策の大きな方向性が見えにくいと思うんです。日本経済のこの先の持続的成長にとって現状では何が最大の問題でしょうか。
長妻 安倍総理が進めている経済政策は、どちらかというと米国型の新自由主義、いわゆるトリクルダウンですね。例えば株を持っている資産家や一部の輸出企業など強い所を引っ張り上げて、そこから恩恵がしたたり落ちて、みんなに行き渡るという仕組みです。そして超金融緩和、いわゆる異次元の緩和です。これが格差とバブルをもたらしている。大げさに言えば有史以来の緩和です。引き締めは、相当な副作用が出て来るんじゃないかと思います。一方、民主党にも経済政策はちゃんとあります。どちらかといえばヨーロッパ型で、ボトムアップで中長期的に経済を成長させて、できる限りバブルと格差を生まないようにしよう、という政策です。特に重要なのは「内需と個人消費」という考え方です。そのためには税による所得再分配が重要ですが、日本は税による所得再分配の機能が米国よりも弱くなってしまった。これを変えれば低所得者ほど所得が消費に回るため、結果的に成長を牽引していく、と。金融緩和によるデフレ脱却については民主党も安倍内閣と立場が同じです。ただ、それがバブルを生んではいけない。民主党政権は「1%の物価上昇をめどとする」ということで、当時、日銀と文書を交わしたんですね。緩やかな金融緩和でデフレを脱却していこうという政策でした。
德川 ほかにも具体的な経済政策はありますか。
長妻 最近、世界の常識になりつつあるのが「所得格差が成長を阻む」ということですね。OECDもかなり詳細なデータを発表して反響がありましたが、格差の拡大が経済成長の脚を引っ張ってしまう、ということです。所得格差が拡大すると、低所得層の子どもたちの教育の機会が失われて、国民全体としては潜在力を発揮できなくなる。そこでわれわれは人へ投資して、経済成長の基盤をつくることで、腰折れをしない成長を実現しようとしました。安倍政権は「世界で一番企業が活躍しやすい国」ということをスローガンにしていますが、私たちは「世界で一番働きやすい国」を目指していると言えるかもしれません。女性や高齢者も含めて、働きたい人の側に立って社会制度を見直していく。自民党とは視点がちょっと違います。
德川 私も「再分配と弱者救済がないと経済成長は続かない」という点では同感なんですが、日本は国の税収が少ないという問題があります。GDPの1割ですから先進国の中ではかなり低い。そして、それとほぼ同額の借金を毎年積み増していて、そろそろ限界に近づいていると思います。だからこそ税収を増やす方法を考えなくてはいけない。仮に来年、再び民主党政権が誕生するとなれば、どうやって税収を増やすのでしょうか。かつての民主党政権は予算配分を変えて、より効率的に成長する政策哲学を「コンクリートから人へ」という言葉に要約しました。それで今年になって、栃木で堤防が決壊して大洪水が発生したのか、なんて思います。

德川家広氏(政治評論家)
長妻 先日の堤防の決壊については、ネット上で「民主党政権がスーパー堤防の予算を事業仕分けで削ったから決壊した」という変な噂が流れていますが、これは全くの事実無根です。防災については人の命を守るということで、「コンクリートから人へ」のスローガンの「人」には人の命という意味も含まれているので、安全に関わる公共事業すべてを否定しているわけではありません。
ご存じのように、1985年のプラザ合意で円高不況が来るということで、当時の日本政府が必要以上に恐れおののいて、米国政府からの圧力もあって、大規模な公共事業をやり続けた。それだけの公共投資が積み重なって、今の借金の水準に達したという経緯です。民主党がまた政権を取ったとしても、魔法のようにパッと借金問題が解決するという策はありません。一番重要なのは、財政破綻を起こさないこと。政府がデフォルトに陥るということだけは絶対にやってはいけない。この点今の安倍政権は甘いですが、まずはプライマリーバランス、基礎的収支を黒字化し、それを絶対悪化させない。これを強い決意で進めて行くことが大前提だと思います。消費税についても国民の皆さまには申し訳ないですが、2017年の4月には10%に上げなくてはならない。その一方で、中長期的に人への投資を続けて、経済の基盤を強化する。そして本当に緊急性のある、重要な予算以外は基本的にはつけない。危機感を高めた予算編成をしないと危ういのではないかと思います。
長妻昭氏、倒産寸前企業を立て直す意気込みで厚労省へ
德川 長妻さんの政策観はポピュリストとは全然違います。それでも民主党政権時代、長妻さんにとって霞が関は「敵」でしたか。
長妻 そういう官僚もいましたが、改革派の人もいました。今思えば、もうちょっとメリハリをつけてやる必要があったかもしれませんね。
德川 政権交代後、厚労大臣への就任が決まって、初めて大臣執務室に入る時には、何を感じておられましたか。
長妻 たとえが良いかどうかは分かりませんが、ガタガタな倒産寸前の企業に乗り込んで行くような気持ちでしたね。当時は消えた年金ですとか、グリーンピアの無駄遣いとか、いろいろな不祥事が重なっていましたから、そういう組織を立て直す、というような意気込みでした。民主党政権では大臣1人ではなく、副大臣2人と政務官2人がついてくる。今の自民党政権にも副大臣、政務官がいますが、これはチームではありません。大臣が自分で副大臣、政務官を選ぶことができないんです。私は自分が選んだ副大臣と政務官と5人のチームで乗り込んで、改革の使命感を強く持っていました。
德川 省内の抵抗は予想しておられましたか。
長妻 一番驚いたのは職員に危機感がないことでした。「今の流儀を変える必要はない」という雰囲気が蔓延していたので、ショック療法が必要だと思いました。当時はマニフェストという、かなり国民の皆さんの理解を得たツールがありましたので、マニフェストをテコに改革をいろいろやっていきました。
德川 官庁に危機感を持たせるには、とにかく予算を削りたい立場の財務省をうまく使うのがベストだと思うのですが。
長妻 私も全く同じことを考えて、無駄遣いを徹底的になくしていこうとして、財務省の厚労省担当者ともよく話をしていました、厚労省の本当の無駄遣いはどこにあるのか、という情報を財務省から提供してもらい、厚労省内でも徹底的にヒアリングをして問題点を炙り出していったんです。さらに厚労省内に「省内事業仕分け室」をつくって、当時の官房長をトップに据えて、相当な無駄を探してどんどん削っていきました。(次号、後編に続く)
文=德川家広 写真=幸田 森
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